頚椎症性脊髄症とは?
頚椎症性脊髄症は、首の骨である頚椎に加齢による変化が生じた結果、脊髄が圧迫されて、さまざまな神経症状が起こる病気です。
私たちの体を支えている脊椎は、椎骨と呼ばれる骨が積み木のように積み上げられてできており、7個の頚椎、12個の胸椎、5個の腰椎と、尾骨・仙骨から構成されています。
椎骨と椎骨の間にある椎間板は、背骨に対する衝撃をやわらげるクッション役と、椎骨同士のつなぎ役の役目を担っています。
脊椎の役割は、骨格の中心となって私たちの体を支えるだけではありません。
同時に、脊髄神経と呼ばれる脳と体をつなぐ神経の通り道となり、かつ、この脊髄を保護する役目も果たしています。(*1)
脊柱管は、椎骨が連結して形作るトンネル状の管で、ここを脊髄神経が通ります。脊髄からは、神経根として分岐した神経が手足などに向かって伸びています。
年を取ると、頚椎自体や、その間の椎間板、脊椎を支える靭帯などに変性が起こり、それによって神経が圧迫されて起こる病気が、「頚椎症」、もしくは、「変形性頚椎症」です。
頚椎の圧迫される部位により、病名が違ってきます。
脊髄そのものが圧迫されて症状が出る場合が、「頚椎症性脊髄症」。脊髄から分岐した神経根が障害される場合が、「頚椎症性神経根症」と呼ばれます。
脊髄が圧迫される頚椎症性脊髄症は、症状が両側に出ますが、頚椎症性神経根症は、片側の神経根のみが圧迫されるため、片側だけに症状が出ます。
それが、2つの疾患の違いということになります。
ただし、脊髄と神経根は近くにあり密接しているので、脊髄と神経根が共に圧迫される合併例もよく見られます。
(*1)日本脊髄外科学会
脊髄は中枢神経であり、神経根は末梢神経であるため、症状も違いますし、更には神経を前方から圧迫するか、後方から圧迫するかでも、運動神経の症状か感覚神経の症状かと違ってきます。
頚椎症性脊髄症の原因
頚椎症性脊髄症の主な原因
頚椎症性脊髄症の主な原因は加齢で、脊柱管の中を通る脊髄が何らかの形で圧迫されて起こります。
脊髄を圧迫する主な要因
- 骨棘(こっきょく、骨のとげ)
- 靭帯の肥厚
- 頚椎のズレ
など
椎骨の、前方の円柱のようになっている部分が「椎体」、後ろの部分が「椎弓」です。加齢によって、椎体が変形すると、椎体の一部が尖ってきて棘のようになることがあります。これが「骨棘」で、脊髄を圧迫する要因の1つとなります。
靭帯は椎骨と椎骨をつなぎ脊椎を安定させていますが、加齢や、くりかえしの動作の負荷などによって、この靭帯が肥厚(分厚くなる)すると、靭帯の厚くなった部分が脊髄を圧迫することがあります。
椎骨と椎骨をつないでいる椎間関節に加齢によって変性が生じると、関節がグラグラしてきます。椎骨が不安定になり、関節がズレて動きが出ることで、脊髄が圧迫されることもあります。
とくに高齢者の場合、頚椎の不安定性によりこの疾患が起こることが多く、高齢者の頚椎症性脊髄症の約半数がこれに該当するとされています。(*2)
頚椎椎間板ヘルニアとの違い
頚椎椎間板ヘルニアでも、頚椎症性脊髄症と同じような症状が生じます。
椎間板は、中央の「髄核(ゼリー状の柔らかい組織)」と、それを囲む丈夫な「繊維輪」からなります。
年を取ると、椎間板の水分がだんだん失われていき弾力性がなくなり、ひびが入ったり、徐々につぶれていきます。
椎間板がつぶれ、髄核が飛び出すのが椎間板ヘルニアで、飛び出した髄核が脊髄や神経根を圧迫し、症状が出ます。(*3)
頚椎症性脊髄症と頚椎椎間板ヘルニアは、隣接する骨棘やヘルニアが脊髄を圧迫して起こるので、同じような症状が出ます。
MRIをとれば判別できますが、症状のみから、いずれの病気かを見分けることは難しいことになります。
頚椎症性脊髄症は50歳以上の人に多く発症し、とくに70歳以上に多い病気です。加齢による変性がじわじわ進んでいくため、症状もじわじわ現れます。
これに対して、頚椎椎間板ヘルニアは、30代〜50代に多く発症します。
椎間板の変性自体は頚椎症性脊髄症と同様に徐々に進行していきますが、発症時には繊維輪に亀裂が生じ、中から髄核が飛び出した際、脊髄を圧迫して症状が出るので、タイヤのパンクのように、症状はある日突然起こります。(*1-2)
そのほかの原因
生まれつき脊柱管が狭い人も、頚椎症性脊髄症になりやすいとされています。そもそも日本人(黄色人種)は、脊柱管の大きさが欧米人と比較すると小さく、脊髄症が起こりやすい傾向があります。(*4)
加齢に伴う変性には個人差があり、どのような人に起こりやすいのか、また、何が原因で重症化しやすいのかなどについて、今のところ詳しいことは分っていません。
ただ、スマホを長時間使うといった下向きでの作業や、首を反らす姿勢の繰り返しなどが原因になるともいわれています。
(*1-2)日本脊髄外科学会
(*2)岡山大学病院医歯薬学総合研究科 整形外科学
(*3)日本脊椎脊髄病学会
(*4)日本整形外科学会
診察室でよく耳にするのは、頸椎症性脊髄症の症状を、加齢と諦めている方が多いことです。だんだん歩きにくくなる症状は仕方ないと諦められる前に一度検査をお勧めしたいです。
頚椎症性脊髄症のさまざまな症状
頚椎症性脊髄症の症状とは?
頚椎症性脊髄症は、脊髄神経が圧迫されることで、以下のようなさまざまな症状が現れます。
- 首の痛み
- 手足のしびれ
- 手足の知覚障害
- 手指の動きが悪い(巧緻性障害)
- 歩行障害
- 膀胱直腸障害
など
脊髄というのは、手足などに行く神経の束です。それが圧迫されると、主に手足に症状が出ることになります。
神経には、筋肉を動かす運動神経と、手足の感覚を脳に伝える感覚神経があるため、運動と感覚、両面の症状がでます。
頚椎症性脊髄症は、少しずつ症状が進んで行く病気です。初期症状としては、手足のしびれや感覚異常がよく見られます。
それから次第に、手指の動きが悪くなる「巧緻(こうち)性障害」へと進行していきます。
比較的若年の場合、初期段階から症状を自覚できますが、高齢になると気づくのが遅れる場合があります。(*4)
ただ、病気の進み方はさまざま。軽いしびれや鈍痛があまり変化せず、長年経過するケースもあれば、数ヶ月から数年の経過で手足の動きに強い障害が出るケースもあります。症状の進行は正確には予測できません。(*1)
まれに急速に症状が進行し、数週間程度で歩けなくなるケースもあります。
頚椎症性脊髄症が進行すると現れる主な症状
巧緻性障害とは、手先の細かい作業が自由にできなくなること。
「ボタンのはめ外しがやりにくい」「箸がうまく使えない」「字がうまく書けない」といった症状が起こります。
手指の巧緻運動障害があるかどうかを判定するのに使われるのが、「10秒テスト」(grip and release test)。10秒間でグーパーを繰り返し、その回数が20回以下の場合、巧緻運動障害ありと診断します。(*5)
歩行障害では、「足を前に出しにくい」「速く歩けない」「歩行がぎこちない」「階段を降りるのが怖い」「足の裏にものがはりついた感覚がある」といった症状が出ます。
なお、首の痛みについては、頚椎症性脊髄症の特別の特徴というわけではありません。首が痛いからといって、ただちに頚椎症性脊髄症とは判定できないので、注意が必要です。
症状が進行し、さらに悪化すると、筋力低下が生じ、歩くのに杖が必要になったり、歩けなくなる恐れがあります。膀胱排尿障害を発症し、尿や便が出しにくくなることもあります。
このように頚椎で脊髄が圧迫されている状態で、足腰の弱っている高齢者などが万が一転倒すると脊髄を痛めてしまうことがあり、非常に危険です。
(*4)日本整形外科学会
(*1)日本脊髄外科学会
(*5)頚部圧迫性脊髄症のリハビリテーションに必須の評価法と活用法
両下肢の感覚障害についてです。痺れなどの症状もありますが、深部感覚と言って「地面に足がついている」感じがわかりにくくなり、バランスが取れなくなり、ふらつきや歩行障害の原因となります。
また足が攣る、手が攣るといった攣りやすい症状の原因となることもあります。
頚椎症性脊髄症の検査・診断
頚椎症性脊髄症の主な検査には、次のようなものがあります。
- 骨棘(こっきょく、骨のとげ)
- 靭帯の肥厚
- 頚椎のズレ
など
頚椎のX線撮影を行い、その画像から、脊柱管の狭さや、椎骨の配列異常やズレなどを確認します。
X線検査では、首を反らしながら撮影を行うことがあります。これは、椎間板や椎体にすべりやズレがないかどうか確認するものです。
MRIでは、脊髄が圧迫されているかどうかを確認し、確定診断となります。手術が必要と判断される場合には、CT撮影も行われます。
なお、中年以降になると、頚椎の加齢変化はほとんどの人に起こってきます。
画像上で、例えば、骨棘が脊髄を圧迫している様子が確認できても、全く症状が出ていないケースもしばしばあります。
ときおり、「脳ドックで脊椎を撮影したら、脊髄が圧迫されているところがあるといわれました。手術が必要なのでしょうか」と相談を受けることがありますが、症状が出ていない限り、手術や治療の必要はありません。
脊髄のどの部位で圧迫を受ければ、「どこに」「どのような」症状が出るか、既にわかっています。
このため、頚椎症性脊髄症の診断においては、まず、「手がしびれる」「階段を降りるのが怖い」といった自覚症状があって、その症状と画像診断の患部の状態が一致していることを確認することが重要。
それが確定診断の決め手となります。
(*1)日本整形外科学会
頚椎症性脊髄症の保存療法
頚椎症性脊髄症の主な保存療法
頚椎症性脊髄症が軽症で、手足のしびれのみなどで日常生活での不具合が少ない場合、まず保存療法を行って、経過を見ることになります。
保存療法には、次のようなものがあります。
- 装具療法
- 薬物療法
- 牽引療法
- 温熱療法
- 理学療法(リハビリテーション)
など
保存療法としては、安静と薬物療法が第一選択とされています。(*3-2)
続いて、それぞれの治療法について解説します。
保存療法の種類と解説
装具療法
頚椎の安静位は、顎を軽く引いた状態で、前上方を向いた姿勢です。
安静を保つために、この姿勢を保持することが大切で、そのために頚椎カラーなどの装具を使用します。
ただし、頚椎カラーで固定すると視野が制限され、転倒する危険があります。障害物や段差に注意し、歩きやすいシューズなどを着用するようにしましょう。
薬物療法
薬物療法に使われる主な薬は以下です。
- 消炎鎮痛薬
- ビタミンB12
- 筋弛緩薬
- 抗不安薬
- プロスタグランディン製剤
- ステロイド
など
痛みを抑えるために、主に消炎鎮痛薬(ロキソプロフェンなど)が用いられます。
ただし、これは根本的な治療ではなく、対症療法。しびれなどには効果がありません。痛みのコントロールが十分ではない場合、ブロック注射などが行われます。
牽引療法
主に顎にベルトを掛けて、体重のおよそ10分の1の重さで引っ張る治療法です。首にかかった圧力を軽減して、症状の軽快を目指します。必ず主治医の指導の元に行ってください。
温熱療法
「ホットパック」などを用いて、首を温める治療法です。
理学療法(リハビリテーション)
運動やマッサージなどで、身体機能の改善を目的に行う治療法です。
ただし、整体やマッサージなどの代替医療などを行い、かえって神経障害が発生した事例もあるため、くれぐれも注意が必要です。
保存療法として運動を行う場合、必ず主治医に相談したうえで実行することをお勧めします。
(*6)
(*3-2)日本脊椎脊髄病学会
(*6)頚椎症性脊髄症診療ガイドラインat a glance 2020改訂第 3版
頚椎症性脊髄症の治療法、保存的加療で頸椎カラーを装着する期間は、短期での使用に努めてください。使用が長くなるほど、筋肉がサボり出して萎縮する可能性があります。ただし固定術後など不安定性がある場合は数ヶ月単位での装着をお願いします。
頚椎症性脊髄症の手術療法
手術のタイミング
軽症の場合、保存療法が一般的ですが、保存療法を行っても効果がなかった場合、手術が検討されることになります。
とくに手術を検討すべきポイントが2つあります。
- 手足のマヒが強い場合
- 手指の巧緻性障害がある場合
頚椎症性脊髄症は進行性の疾患であるため、40代や50代など比較的若年の人の場合、残りの長い人生を考慮し、早めの手術に踏み切るケースがあります。
すぐに手術をしないケースでも、徐々にマヒがひどくなってきたり、巧緻性障害が悪化してきた場合、手術が選択肢となります。
では、手術はいつするのがいいのでしょうか。実は、頚椎症性脊髄症は手術のタイミングが重要です。手術すべきタイミングを逃すと、手術を行ったものの、なかなか元に戻らないケースがあるからです。
手術は、歩けなくなってからでは遅いとされています。
保存療法を漫然と継続することは、患者のQOL(生活の質)を損なうおそれがあり、歩行障害や手指の巧緻性障害が出ている場合、歩けるうちに手術をすることがすすめられます。(*6-2)
高齢者の場合も、健康状態等が許せば、手術が検討されます。
重度の合併症がなく、歩行障害が出ていない、病歴が短いといった高齢者の症例では、手術により良好な機能回復が得られることが報告されています。(*6-3)
前方法と後方法
手術方法にはどのようなものがあるでしょうか。
手術方法は主に2つあります。前方法と後方法。すなわち、脊髄の前方からアプローチする手術法と、後方からアプローチする手術法です。
前方法:「前方固定術」
後方法:「椎弓切除形成術」
どちらの方法を選ぶかは患部の状態によって決まります。
手術法選択の3つの要因
- 圧迫が起きている主要な部位が前方か、後方か
- 圧迫部位の範囲が狭いか、広いか
- 脊柱管の狭さ
頚椎症性脊髄症は、脊髄が圧迫されて起きる病気ですから、圧迫しているものを手術で取り除けば、治すことができます。
主な圧迫が生じているのが脊髄の前方か、それとも後方か、それが手術法を決める有力な要因になります。
圧迫部位の範囲も重要です。圧迫部位が狭い範囲(1〜2か所)ならば、前方法。圧迫部位が3箇所以上にわたる場合、後方法がより適しています。
脊柱管の直径が広いか狭いかも、判断材料になります。脊柱管の直径が14㎜以上なら前方法、13㎜以下なら後方が原則。
高齢者や骨粗鬆症で骨がもろくなっている場合も、後方法がすすめられます。
続いて、前方法と後方法、それぞれ、どんな手術法か説明しましょう。
前方固定術
前方固定術は当院では顕微鏡下で行われます。首の横を切開し、前方から頚椎に到達します。気管や頸動脈など重要な器官が存在しているためデリケートな手術が必要となりますが、首の筋肉を傷つけないため、術後の痛みが少ない特徴があります。
手術の際、病変のある椎間板が取り出されるため、椎間板の無くなったスペースを、様々なインプラント(チタン製ケージやスクリュー・プレートなど)という人工椎体などで充填し、脊椎を固定します。
手術では脊髄の前方からの圧迫となっていることが多く、後方アプローチと比較して症状の改善がいいことが多いです。
椎弓切除形成術(後方後側方固定)
顕微鏡下で行われます。首の後ろから切開し、頚椎に後方から到達します。頚椎の後ろ側には、大きな血管や気管などのデリケートな臓器がないため、危険は少なめです。また、後方法は、広い範囲の神経圧迫を除圧できるという利点もあります。
その一方、比較的大きな筋肉が多いため、術後に、頸部の筋肉の痛みが術後強く出ることがあります。
椎体の後方部分にあたる椎弓と呼ばれる部位を開き、頚椎にチタン製スクリューなどのインプラントで固定し、さらに椎弓を切除し脊髄の圧迫を取り除きます。
顕微鏡による手術のメリット
前方法も、後方法も、顕微鏡を使った手術を行いますが、裸眼による手術と比べると顕微鏡下手術には次のようなメリットがあります。
- 除圧がしっかりできる
- 皮膚切開の傷が小さい
- 出血が少ない
- 回復が早い
脊髄を圧迫している骨や靭帯、ヘルニアなどを除去(顕微鏡下手術の場合、ドリルで削り)、圧迫を取り去ることを「除圧」といいます。裸眼による手術では、脊髄を傷つけてしまう恐れがあるため、脊髄のギリギリ近くまで除圧を行うことが難しいケースがあります。
一方、顕微鏡による手術では、術野を顕微鏡で拡大し、かつ、明るく照らすことができるため、脊髄を傷つけないラインを見極めつつ、ギリギリまで圧迫部位を除去し、除圧を行うことが可能。このため、脊髄の圧迫が解消し、症状もスッキリ消えることが多いのです。
顕微鏡を使うことで、皮膚切開の傷を小さく抑えることができます。出血が少ないのも大きな長所。もし仮に手術中、出血があった場合も、明るい術野のおかげで出血に早めに気づき、止血をスムーズに行えます。この点でも出血を抑えることができます。傷口が小さく、出血が少ないため、回復が早くなり、早期離床や入院期間の短縮が可能になります。
(*6-2)頚椎症性脊髄症診療ガイドラインat a glance 2020改訂第 3版
(*6-3)頚椎症性脊髄症診療ガイドラインat a glance 2020改訂第 3版
合併症・リハビリなど
術後合併症
前方法、後方法の術式を問わず、次のような合併症が発生するリスクがあります。
- 出血
- 感染
- 術後血腫(術後、創部の出血が止まらず血種ができる)
- 神経障害・感覚障害
- インプラントのトラブル
- 痛み(後方手術の場合)
- 髄液漏
など
前方法では、呼吸・嚥下困難、嗄声(声がしゃがれること)、インプラント(移植した骨)がよくつかないといった合併症が生じる可能性があります。
なお、神経障害・感覚障害は、大半は一過性のものです。
後方法では、首の後ろの筋肉を切るため、術後、痛みがでやすいとされています。
顕微鏡下手術では、出血部位がよく確認でき、止血もスムーズに行えるため、術後血種も起こりにくいです。
髄液漏は、脊髄を包んでいる膜(これが「硬膜」)が破れ、中の脊髄液が漏れる症状です。脳神経外科医の場合、硬膜の扱いに慣れているため、髄液漏が起こりにくく、かつ、もし起こった場合も、リカバーもしやすいとされています。
術後のリハビリ
術後翌日には車椅子乗車や状況により歩行訓練を行います。離床時には頚椎カラーなどの装具を着用してもらう場合もあります。通常、顕微鏡手術は術後7-10日間で退院となります。
頚椎症性脊髄症があると、しだいに筋力低下が進行し、首が動かしにくくなっています。筋力低下が起きている場所を確認し、適切な筋力強化のトレーニングを行っていきましょう。
姿勢の改善も重要です。
頚椎症性脊髄症の原因の1つが、日常生活の「悪い姿勢」にあるためです。
壁や鏡などを使って正しい姿勢を知ってもらい、不足している筋力の強化を行います。姿勢の改善によって、首にかかる負担を軽減することができます。
生活上の注意
頚椎症性脊髄症の予防・改善のためには、日常生活の中で姿勢や首の動かし方について気をつける必要があります。
日常生活での注意点
- 首を過度に前後に倒したり、回したりしない
- うつぶせの姿勢で寝ない
- 長時間、顔が下、あるいは、上を向いたままの姿勢とらないようにする
- 家の中を片づける
など
運動に限らず、首を動かし過ぎれば、頚椎の負担となってしまいます。予防の意味でも、術後でも、禁忌となるのが首を後ろに反らす姿勢です。
歯医者や美容院などに行くと、首を後ろに反らせる姿勢をとることがありますから、注意してください。電球を取り換えるときなども、首を反らせるので、こうした姿勢を極力とらないようにします。
顔がずっと下を向いたままであったり、上を向いたままの姿勢を長い時間とり続けることも首によくありません。
勉強、読書、スマホ、編み物、パソコン操作、テレビ視聴といった場合、寝転んで本を読んだり、テレビを見たり、同じ姿勢を取り続けてしまうことが多いため、適宜姿勢を変えることが望ましいでしょう。
デスクワークでは、作業中に休憩を入れるよう心がけてください。
仕事の際、特にデスクワーク時に、机やイスの高さ、パソコンモニター画面の高さと角度を調節しましょう。できるだけ目線とディスプレイの高さを合わせる必要があります。
机に手を乗せたとき、肘関節、股関節、膝関節がほぼ垂直に曲がり、足底が地面につくように、 椅子の高さを調節します。
頚椎症性脊髄症では、転んで脊髄を損傷することは避けなければなりません。
そのために家の中の環境整備を行いましょう。段差をできるだけなくし、物を散らかさずに片づけることも大切です。
特に頚椎症性脊髄症の方に注意いただくことは、
・頚部を反りすぎない、伸展しすぎないこと
・頭をぶつけたり、転んだりする外傷を予防するようにしていただき、脊髄損傷にならないこと
この2点を心がけていただいております。
受診のすすめ
突然、首の痛みが生じたり、それが何日も続くと、だいじょうぶだろうかと心配になることがあります。
首がただ痛いだけではなく、手足にしびれを感じたり、手足の動かしにくさを感じるようでしたら、ぜひ一度、脊椎や脊髄に詳しい専門病院を受診し、首に問題がないかどうかを調べてもらうことをおすすめします。
「ボタンがとめづらい」「階段を降りにくい」といった症状は脊髄が圧迫されていることによって生じている可能性があるからです。
とくに頚椎症性脊髄症の場合、脊髄が圧迫された状態で転倒することはとても危険。脊髄を痛めてしまうおそれがあります。まずは脳神経外科医などの専門医に首の状態を確認してもらいましょう。
また、首にメスを入れるとなると、不安を感じる人も多いでしょう。
しかし、顕微鏡下の手術はダメージが少なく、安全性も高いものです。担当医の説明をよく聞いて、納得したうえで手術を受けることをおすすめします。
特に脊髄症状は、徐々に症状が増悪するため症状出現に気が付かないことが多いです。手で細かなものを扱いにくいことや歩行時にふらつくことがあれば一度受診をお勧めします。
頚椎症性脊髄症は
早めの治療が肝心
頚椎症性脊髄症は、徐々に進行していく病気です。
残念ながら、放置しておいても自然治癒することは期待できず、悪化すればするほど、治りが悪くなります。ですから、この病気であることがわかったら、迷うことなくしっかり治療を行うことが肝心です。
適切な治療を続け、症状の原因となっている脊髄の圧迫を解除できれば、症状をスッキリ解消させることが可能です。
専門医のアドバイスに耳を傾け、必要とされる治療法を着実に行っていきましょう。