頚椎椎間板ヘルニアとは
頚椎椎間板ヘルニアとは、骨と骨の間にある椎間板が劣化し、椎間板の内容物が飛び出して脊髄や神経根を圧迫することによって、首の痛みや手の痺れなどの症状が出現する疾患のことをいいます。
頚椎とは首の骨のことをいい、首は7つの頚椎が一列に連なることによって構成されています。

骨と骨の間には椎間板と呼ばれる柔らかい組織があり、体重を支えるクッションのような役割を果たしています。
また、人間が首を動かす際には柔軟性のある椎間板が少しずつ変形しながら動くことで、回旋や側屈など自由度の高い動きをサポートしています。(*1)
椎間板の中心にはゼリー状の髄核という組織があり、それを線維輪という、ゴムチューブのような繊維性組織が覆うという、二層構造になっています。
しかし何らかの原因により、繊維輪に亀裂が入ると内部にあるゼリー状の髄核が飛び出してしまいます。

このように、本来は繊維輪の内側にあるべき組織が外に飛び出してしまう状態のことをヘルニアといいます。
人間の背骨は首の骨である頚椎から、胸の骨の胸椎、腰の骨の腰椎と続いていて、椎骨が連なって作られるトンネル状の管のことを「脊柱管」といいます。
この脊柱管のなかには脳から続く脊髄神経が通っており、手足の筋肉を動かす運動神経や、手足の感覚を脳へ伝える知覚神経、内臓の働きを調節する自律神経といった神経繊維が束状になって走っています。
また、脊髄からは神経根といって、細い神経が左右から枝分かれして、筋肉の運動を引き起こしたり、触覚、姿勢、痛み、温度などの感覚情報を脊髄へ伝えたりしています。
しかし椎間板が破綻して内容物が繊維輪から外へ飛び出すと、この内容物が脊髄や神経根を圧迫することがあります。
そのため、痛みや痺れなどの神経症状を引き起こしてしまうのです。(*2)
頚椎椎間板ヘルニアは頚椎の疾患の中で非常に頻度が高く、男女比をみると、特に男性に多く発症することが知られています。(*3)
(*1) Jpn J Rehabil Med 2016;53:746-749
(*2) 公益社団法人 日本整形外科学会 整形外科シリーズ6 頚椎椎間板ヘルニア
(*3) 日本ペインクリニック学会

頭部の重たさはボーリング玉くらい重たいと言われています。そのため頚椎にその負担がかかりやすくなっており、そこで重要なのが、頚椎の前弯(前カーブ)です。これにより力の負担が一つ一つの椎体に分散されますが、ストレートネックだと、その負担が一箇所に集中し、椎間板が飛び出す原因となります。
頚椎椎間板ヘルニアの典型的な症状例
頚椎椎間板ヘルニアが発症すると、主に次のような症状が出現します。
- 首、肩甲骨、腕の痛み
- 手足のしびれ
- 腕や手指の脱力
頚椎椎間板ヘルニアの代表的な症状は、急に生じる首の痛みです。

「寝違えたような痛み」と例えられることが多く、その痛みに続いて腕や手指の痺れや痛みが出現するのが特徴です。
頚椎椎間板ヘルニアは、どの方向へ内容物が突出するかによって、以下の3タイプに分類されます。
- 正中ヘルニア
- 傍正中ヘルニア
- 外側ヘルニア
これらのうち、正中ヘルニアと傍正中ヘルニアは脊髄を前方から圧迫しており、一方、外側ヘルニアは神経根を圧迫することが多いとされています。
脊髄が圧迫されると左右両側に症状が出現することが多く、頚部の痛み、手足の痺れ、手足の知覚障害などの症状が出現します。
脊髄が障害されると「痙性歩行(けいせいほこう、下肢の筋肉が異常に緊張し、麻痺することによる歩行障害)」が起きたり、膀胱機能障害が見られたりすることもあります。
そのほか、ボタンをはめたり、文字を書いたり、箸を使ったりといった細かい作業がやりづらくなる「巧緻運動障害」が見られることもあります。
一方、神経根が圧迫される場合にも頚部の痛み、手足の痺れ、手足の知覚障害などの症状が出現しますが、まずは首から肩にかけての激痛が起こり、徐々に上肢や手指への放散痛(痛みの原因となる部分とは、別の場所に現れる痛みのこと)や痺れが生じるという特徴があります。
また、正中ヘルニア、傍正中ヘルニアは頚椎の5番目(C5)と6番目(C6)の間で椎間板の破綻が生じることが最も多く、ついで4番目(C4)と5番目(C5)の間に生じるとされています。一方、外側ヘルニアは頚椎6番目(C6)と7番目(C7)の間に生じることが多く、ついで5番目と6番目の間に生じるとされています。(*4)
(*4) 日本ペインクリニック学会


正中ヘルニアは脊髄を圧迫することが多く、脊髄症が起きやすく、一方外側ヘルニアは神経根を圧迫することが多く神経根症を呈します。特に放散痛は神経根症の症状であることが多く、外側ヘルニアにみられます。
椎間板ヘルニアの主な原因は加齢や生活習慣
頚椎椎間板ヘルニアは、一体なぜ生じるのでしょうか。
主な原因は、加齢です。
人間は加齢に伴って筋肉量が減少し、体脂肪の割合が高くなります。
脂肪の組織は筋肉の組織に比べて水分の含有量が少ないため、年齢とともに体内の総水分量は減少してしまいます。
すると、椎間板内の水分量も少なくなり、硬くなることで弾力性が低下してしまいます。
そのため、わずかな刺激が原因で亀裂が入るなど、損傷しやすくなってしまうのです。

一般に、10代後半から椎間板の水分が減少するとされており、「まだ若いから、椎間板の損傷のリスクはない」と油断することはできません。
そのほかにも、頚椎椎間板ヘルニアの原因には、以下のことが考えられます。
- スポーツ
- 重労働
- デスクワーク
頚椎椎間板ヘルニアは、首に過度な負荷がかかることで生じやすくなります。
そのため、レスリングやラグビー、柔道などのスポーツや格闘技などは、首に大きな衝撃が加わって神経を傷つけてしまうリスクがあります。
競技中に転倒するなど、外傷がきっかけで頚椎椎間板ヘルニアを発症することもあるので、首に痛みがある、違和感を覚えるなどの症状があるときには、これらのスポーツを控えることが賢明です。
また、「重いものを持ち上げる」「中腰の姿勢が続く」などの重労働をする時にも、首に対して大きな負荷となり、ヘルニアを発症しやすくなります。
そのほか、現在特に気をつけたいのがデスクワークです。
デスクワークをしているときに、無意識にパソコンを覗き込むようにして前屈みになっている人も多いと思いますが、この姿勢を長時間持続すると、頚椎の並び方も影響を受けてしまいます。

本来、人間の首は自然なカーブを描いており、横から見るとゆるやかに前弯をしています。
これによって頭の重さが分散され、細い首で頭を支えることができるのです。
しかし、前屈みの姿勢でデスクワークを続けると、自然と首が前方へ突き出した状態となるため首の前弯がなくなり、首がまっすぐの状態になります。
この状態をストレートネックといい、首の関節や筋肉に大きな負荷を与えてしまいます。

ストレートネックの状態を放置すると、肩こりや頭痛の原因となるだけでなく、頚椎椎間板ヘルニアをはじめ、さまざまな頚椎疾患の原因となることもあります。
そのほかにも、頚椎椎間板ヘルニアの発症原因としては、遺伝や喫煙のほか、ストレス、不安、抑うつなどの精神的な負担も大きく関わっていることが指摘されています。

頚椎椎間板ヘルニアは、症状が軽度であったり、自然に改善する場合があるため、医療機関で診断されないまま「実は頚椎椎間板ヘルニアだった」というケースがあります。しかし、その原因を改善しないと、椎間板に繰り返し負担がかかり、症状が再発したり、隣接する椎間板がヘルニアになることがあり、徐々に症状が重症化することさえあります。このような状態で来院される方もいますが、治療をしても後遺症として長期間にわたって症状に悩まれる方も見受けられます。そのため、早期の発見と適切な対処が重要です。
必要な検査と診断
頚椎椎間板が疑われるときには、以下の検査を行います。
- 問診
- 神経学的初見
- 画像診断(レントゲン検査、MRI検査など)
頚椎椎間板ヘルニアの診断では、問診が非常に重要です。
特に、「どんな姿勢をすると痛みやしびれが生じるのか」「どのような自覚症状があるのか」「どのくらい強い症状があるか」「どうやると改善するか」などを詳細に確認します。
それから神経学的所見を確認します。
これは脳、脊髄、神経の機能を調べるために行われる検査のことで、これを行うことにより、神経系がどのような障害を受けているのかを推測することができます。
神経根の障害を調べるためのテストとしては、以下のものが一般的です。
- ジャクソンテスト(Jackson Test)
Jackson head compression testとも呼ばれるテストで、頚椎から手に向かって走っている神経の障害を調べる。患者を椅子に座らせ、頭を後ろに倒させる。医師は患者の後ろに立って患者の頭を後ろに倒した状態で上から下へ押す。このとき、肩、上腕、前腕、手などの上肢に痛みやしびれが見られた場合には神経根が障害されている可能性がある。
- スパーリングテスト(Spurling Test)
ジャクソンテスト同様、頚椎の神経根障害があるかどうか調べるテスト。患者を椅子に座らせ、医師は患者の後ろに立つ。患者の頭をつかみ、痛みや痺れの出ている側へ傾け、さらに後ろへ反らしながら圧迫する。このとき、肩、腕、手などにしびれや痛みなどが見られた場合には、神経根が障害されている可能性がある。
また、脊髄が障害を受けていることが推測される場合には、以下の検査を行うことがあります。
- ホフマン徴候
患者の手のひらを下に向け、中指を上から下へ弾き、他の指が反射的に曲がるか調べる。中枢神経障害がある場合には親指が曲がる。
加えて、ゴムハンマーなどで腱を叩き、筋肉の瞬間的な反射を見る「深部腱反射」のテストを行ったり、筋力の低下具合を調べたりします。
なお、障害部位を特定するためには「高位診断」をおこないます。
この場合の「高位」とは神経が損傷した部位のことを指し、痛みや痺れが生じる部位から損傷した神経を特定します。
例えば、C6の神経根が圧迫されている場合は、次の図で赤く示した「前腕橈側から手指第1−2指」に痛み・痺れが生じます。
同様にC7の神経根が圧迫されている場合は「第3−4指」に、C8の神経根が圧迫されている場合は「第4−5指と前腕尺側」に痛み・痺れが生じます。


そのほか画像検査では以下のものを行います。
- 頚椎単純X線(レントゲン)検査
- 頚椎MRI検査
X線検査では、椎間板のある部分が狭くなったり薄くなったりしている(=椎体間の狭小化)のが確認できるほか、骨棘(こっきょく)が生じているかどうか確認することもできます。
骨棘とは骨が変性することによって起きる、棘のような突起物のこと。
椎間板の弾力性がなくなると、椎間板に接する骨の角に異常な力が加わるようになり、その部分に骨が増殖し、骨棘を形成してしまうのです。

X線検査の場合、頚椎椎間板ヘルニアの初期では異常が見られないことも多いのですが、ある程度病態が進行すると椎体間の狭小化や骨棘が確認できるようになります。
しかし、X線検査では筋肉や神経、椎間板などの軟部組織を映し出すことができないため、正確に頚椎椎間板ヘルニアと診断するにはMRI検査が必要になります。
MRI検査では脊髄や神経根などの神経も映し出すことができるため、部位の神経が障害を受けているのかなども明らかにすることができます。(*5)
場合によってはCT検査、脊髄造影検査、神経根ブロック、神経電動速度、筋電図検査などを行うこともあります。
これらの検査結果により、患者が訴える症状と、圧迫を受けている脊髄や神経根の位置が矛盾しないと判断された場合、頚椎椎間板ヘルニアが症状の原因であると診断されます。(*6)
(*5)日本医事新報社
(*6)一般社団法人 日本脊髄外科学会

繰り返し椎間板に負担がかかり、椎間板の脱出と変性が繰り返し生じると、ヘルニアが石灰化し吸収されなくなることもあります。その場合、骨棘と同様に神経を圧迫する原因となります。
頚椎椎間板ヘルニアの「保存療法」と「手術療法」
頚椎椎間板の治療法には、「保存療法」と「手術療法」の2種類があります。
保存療法とは手術を行わない治療法のことをいい、手術療法は文字通り、外科的な手術を伴う治療法のことをいいます。
どちらを選択するかは、症状の進行状況によって決定します。
一般に、頚椎椎間板ヘルニアの約60〜90%は自然に症状が軽快するとされており、特に、神経根に障害を与えるタイプの病態では一般的に自然治癒の傾向が強いと言われています。
そのため、痛みなどの症状が片側のみであり、上肢や手指への放散痛のみが症状として見られる場合には安静にしたり、保存療法を行ったりすることで症状が軽快することが多いとされています。(*7)
しかし、保存療法を行っても症状が軽快しない場合、あるいは、「麻痺など神経症状が強い」「筋肉の萎縮を伴う」「両側に症状が見られる」といった場合には手術を検討する必要があります。
(*7) 脊髄外科 VOL.29 NO.3 2015年12月 頚椎症性神経根症(椎間板ヘルニア含む)外科治療に関する指針
1.保存療法
頚椎椎間板ヘルニアの治療の基本は、「頚椎に負担をかけない」ということです。
痛みが強い時期には首の安静保持を心がけ、首に負担のかかる動きや姿勢、運動などは行わないようにします。
また痛みを抑制するために、必要に応じて鎮痛剤や神経ブロック注射を行います。
鎮痛剤では非ステロイド性消炎鎮痛薬(NSAIDs)、アセトアミノフェン、オピオイド鎮痛薬、神経障害性疼痛治療薬などを用います。
また、特に痛みが強い場合には神経ブロック注射を行います。
これにより痛みを軽減できるほか、血管や筋肉の収縮が予防されて血行が改善し、神経や筋肉に酸素や栄養が行き届いて痛みが起こりにくくなる、というメリットがあります。
頚椎椎間板ヘルニアの治療として行われる神経ブロック注射には、星状神経節ブロック、経椎弓間硬膜外ブロック、経椎間孔硬膜外ブロック、神経根ブロックなどがあり、病態に応じて選択します。(*8)
また保存療法では、頚椎カラーなどの装具を用いて頚椎の安定を保持する治療や、特殊な治療器を用いて頚椎を引っ張ることにより、骨同士の圧迫を軽減したり、ズレを矯正したりする牽引治療を行うことがあります。
頚椎カラーとは首用のコルセットであり、これを装着することで頚部の安定性が保持され、緊張が抑制されます。
一般には頚椎ヘルニアの初期など炎症が強い時期に用いられますが、手術のあとなど頚部を安静に保持するためにも装着することがあります。
しかし必要以上に長期間使用すると、首の筋肉が萎縮したり、過緊張の状態になったりして、かえって症状が悪化させることもあるので、装着期間については医師に相談することが大切です。
また牽引治療では通院で行う間歇牽引や入院して行う持続牽引があり、病態に応じて選択します。(*9)

牽引治療を行うことで骨同士の圧迫が軽減されたり、狭くなった骨の間隔が広がって神経や椎間板への圧力が軽減したりする効果があります。
ただし、牽引する方向や強さを誤ると、かえって症状が悪化することもあります。自己判断で行わないようにすることが大切です。
そのほかにも、強い痛みが出現していなければリハビリ(運動療法)を行うことも有効です。
医療機関のなかには、理学療法士が患者の状態や体力、病態などを考慮しながら、一人一人に適切な運動を指導しているところもあります。
特に運動療法では、首を安定させる働きを持つ筋肉にアプローチし、適度な負荷を抱えて鍛えたり、首がスムーズに動くよう可動域を広げたりすることがあります。
ただし、首周辺の筋肉は非常にデリケートなので、必ず理学療法士など専門家の意見に従うようにしましょう。
また、場合によっては温熱療法、電気療法、冷却療法などを行って、痛みの改善を目指すこともあります。
(*8) 日本ペインクリニック学会
(*9) 公益社団法人 鳥取県医師会

2.手術療法
保存療法を行っても症状が軽減しない場合には、手術療法を検討します。
頚椎椎間板ヘルニアに対する手術にはさまざまな術式があり、患者の病態に応じて検討します。
一例として、当院で行っている術式を解説します。
1 顕微鏡下前方固定術
前方固定術とは椎間板の一部を摘出して骨を削り、神経の圧迫を取り除いて症状を軽減する手術のことをいいます。
手術は全身麻酔で行われ、首の前側を約4cm切開して、神経を圧迫している病変や骨棘を摘出します。
椎間板を摘出した部分には人工骨や、自分の骨の一部、あるいは、金属製のスペーサーなどを移植します。
固定術には前方だけでなく後方からアプローチする方法もありますが、前方は後方に比べて筋肉の量が少なく、術後の痛みが軽減され、非常に侵襲の少ない術式ということができます。

近年、医療技術が進化したことにより、顕微鏡で術野を拡大しながら手術を行う「顕微鏡下前方固定術」が行われるようになりました。
前方固定術で骨を削る大きさは約2〜3mmと極微小であり、非常に狭い範囲で手術が行われることになるため、繊細な作業が必要になります。
そうしたことから、顕微鏡下で行う頚椎の手術は整形外科医ではなく、脳外科医が行うケースも増えています。
というのも、脳神経外科手術は、整形外科など他の科の手術とは異なり、顕微鏡を使って拡大した術野を観察し、非常に細かい操作を必要とするからです。
そのため、頚椎のように非常にデリケートな手術は、脳外科の専門性をいかんなく発揮できる分野であり、手術の成功率が高く、術中や術後のリスクも少ないとして、脳外科が顕微鏡下で行う医療機関も増えつつあります。
2 顕微鏡下椎間孔拡大術
顕微鏡で術野を確認しながら、椎間関節に穴をあけ、そこからヘルニアや骨などを摘出し、神経の圧迫を解除する術式のことをいいます。
椎間孔とは、脊椎の椎間関節に空いている穴のことであり、神経の通り道のことをいいます。
そのため、この手術を行うことにより椎間孔が拡大し、神経症状を軽減できます。

この手術も医療技術が進化したことにより、近年では顕微鏡下で行う医療機関が増えつつあります。
顕微鏡下で行う脊椎の手術には、「傷が小さく、出血量が少ない」「術後の痛みが少ない」「術野を明るく立体的に拡大することができ、より繊細な神経組織を保護しながら十分な治療ができる」などのメリットがあります。
また、「内視鏡手術に比べて切開部位が大きい」ということも挙げられますが、肉眼で行う通常の手術に比べれば、顕微鏡下で行う手術も傷跡は格段に小さいため、デメリットとは言えません。
顕微鏡下手術が適しているのは、頚椎の手術のように繊細な術技が求められる分野です。

脊髄は繊細な部位であり、顕微鏡下手術は非常に適した治療方法です。内視鏡手術も進化していますが、患者さんの症状によっては適さない場合もあり、それぞれの個人に合った治療が求められます。
再発を予防するために日常生活で注意すべきこと
頚椎椎間板ヘルニアは、決して珍しい疾患ではありません。
特に中年層に患者が多く、デスクワークや重労働など、日常的な習慣で容易に悪化してしまいます。
そのため、頚椎椎間板ヘルニアを予防する、あるいは、再発させないためには日常的な生活での心がけが非常に重要になります。
日常生活での注意点を挙げてみます。
- 猫背など、首に負担となる姿勢を取らない
- コンタクトスポーツなどを行わない
- 首に負担となる動作を行わない
- 自転車などでの転倒に気をつける
特に注意したいのは、日常的な姿勢です。
パソコンやスマートフォンに向かうときには首が前に突き出さないように気をつけ、できる限りモニターやスマートフォンと目線を揃えることを意識することが大切です。

また、コンタクトスポーツや、首に負担となる動作(重いものを持つ、前屈みになる、など)を避けることも、頚椎椎間板ヘルニアの予防に役立ちます。
そのほか、自転車などで転倒したはずみで首に大きな衝撃が加わり、椎間板を痛めることもあります。
高齢者だけでなく、若い人でも転倒には気をつけるようにしましょう。
それから、頚椎椎間板ヘルニアの予防には寝方や寝るときの姿勢も大切です。
特にうつ伏せで寝ると首は捻れた状態で長時間維持されることになり、またうつ伏せだとあまり寝返りも打てなくなるため、頚椎に大きな負荷がかかります。
また、高すぎる枕も首が後屈の状態となりますし、反対に低すぎる枕も首が反る状態となります。首の自然な弯曲が保てる高さの枕を選び、できるだけ仰向けで寝るようにしましょう。

治療の最終目標は、椎間板ヘルニアの原因を改善することです。そのため、手術が終わっても予防と再発防止にも力を入れる必要があります。しかしこれは患者ご自身の生活に密接に関わるため、医療者が関与しにくい部分です。術後も定期的に医療機関を受診し、画像などで確認することで問題点に気づき、改善の評価をすることをお勧めします。
また余談ですが、最近、殿様枕症候群という病態が報告されています。そもそも頚椎の中を椎骨動脈という血管が走っていますが、その血管が裂ける疾病を椎骨動脈解離といいます。この椎骨動脈解離は、高すぎる枕が発症リスクが上げ、更には死亡率もあげると言われています。こういった病態を指して、殿様枕症候群と言われています。そのため高い枕には注意が必要です。
生活習慣の改善で
頚椎椎間板ヘルニアは予防できる

頚椎椎間板ヘルニアは加齢のほか、悪い姿勢や過度な労働など、生活習慣によっても発症します。加齢に伴う椎間板の変性はなかなか予防が難しいかもしれませんが、生活習慣は心がけで改善できます。首に不安を抱えている人は、ぜひ注意してみましょう。