脊椎とは「背骨」のこと|体を支えるなど日常生活で重要な役割を果たす
脊椎とは、簡単にいえば「背骨」のことです。
人間の頭と骨盤の間に存在する骨のことで、大変長く、成人の場合、40cm以上も続いています。
脊椎は部位によって頚椎(首の骨)、胸椎(胸の骨)、腰椎(腰の骨)と名称が変わり、その下には仙骨と尾骨が続いています。
脊椎は1本の長い骨ではなく、椎骨という小さな骨が一列に連なって構成されており、頚椎は7個、胸椎は12個、腰椎は5個の椎骨から作られています。(*1)
椎骨と椎骨の間には椎間板というクッションのように柔らかい組織があり、骨と骨がぶつかる際の衝撃を和らげる働きをしています。
また、椎骨はリング状になっており、前方には支柱となる椎体が、そして後方には椎弓があります。
椎骨が一列に連なると中央のリング状の部分が一列につながって、トンネルができます。
トンネルのなかを通っているのが、脳から続く神経「脊髄」で、このトンネルのことを脊柱管といいます。
脳と脊髄は、脳脊髄液によって保護されています。
ちなみに脊椎と似た言葉に「脊柱」というものがあります。
どちらも背骨を意味する言葉ですが、意味合いが若干異なる場合があります。
一般には背骨(脊椎)が柱状につながった状態を「脊柱」といいます。(*2)
正しくいえば、背骨=脊柱となりますが、医学の領域では「脊椎疾患」「脊椎外科」というように、脊椎という言葉が多く用いられています。
(*1)一般社団法人 日本脊髄外科学会
(*2)公益社団法人 日本整形外科学会
我々は脳と脊髄という柔らかくて繊細な組織を脊椎という硬い骨に入れて移動しています。しかし脊椎は、外力からは守ってくれますが、脊椎との衝突には弱い状態です。ちょうど箱の中に豆腐を入れて運ぶようなもので、中の豆腐が崩れてしまいます。
「ではどうするか?」
ちょうど袋に水を入れて豆腐を持ち帰るように、硬膜という袋に脊髄液という水を入れ、そこに脊髄や脳を浮かべて、衝撃を吸収しながら運んでいます。そうすることで、外力からも脊髄を守りつつ、硬い容器に柔らかい組織を入れて安全に活動ができるようになっています。
脊椎疾患は、一体なぜ起きるのか?
脊椎は、人間が歩いたり、座ったり、日常生活を行う上で重要な役割を果たしています。
脊椎の役割は、主に以下の3つに分類されます。
- 支持
体幹を支える
- 運動
体を曲げたり、伸ばしたり、ひねったりする
- 保護
神経や臓器を保護する
脊椎や脊髄の病気の大半は、高齢化が原因となって起こります。
つまり、加齢とともに脊椎や椎間板などが変性することで、脊柱管の内部を走っている脊髄や、脊髄から枝分かれした神経根などの神経が圧迫され、さまざまな症状を引き起こすのです。
そのほかにも、先天的な病気や脊髄の腫瘍、外傷、脊髄を栄養を送る血管が障害を受ける疾患などが原因となり、脊椎疾患が起きることがあります。
脊椎の疾患が起きると神経が障害を受けるため、手足がしびれたり、細かい作業がやりづらくなったり、歩きにくくなったり、力が入らなくなったりといった神経症状が現れることがあります。
そのため多くの人は、「これは脳の病気じゃないだろうか?」と不安になって脳神経外科を訪れます。
しかし実は、症状の原因は脳ではなく、整形外科的な領域に見つかることが少なくありません。
正しく治療を行うためには的確に原因を追求することが必要です。
もちろん脳に原因が見つかることもありますが、あらゆる角度から原因を追求し、適切に処置を行うことが大切です。
脳疾患と脊椎疾患とを見分ける1つの目安は、脳疾患は両側性に症状を呈することは稀です。よく言われるように運動神経は、反対側の脳が機能を司っていると言われています。そのため両側性に症状を呈することは少ないです。
これはあくまで目安ですが、症状が両手に出ているか片側で手足に出ているかを確認することも非常に重要です。
脊椎に見られる疾患には、どのようなものがあるのか?
ここからは、脊椎に見られる疾患のなかでも代表的なものについて解説します。
それぞれ発症の原因や治療法は異なり、場合によっては複数の疾患が複合して出現することもあります。
近年では脊椎疾患に対する手術療法も進化し、肉眼だけでなく内視鏡下や顕微鏡下で行われるケースも増えてきました。
特に顕微鏡下で行う手術は、明るく影が少ない術野を確保できるため、切開部位を小さく済ませることができるというメリットがあります。
また、強力な光源を持っているため術野を明るく映し出すことができ、より繊細な神経組織を保護しながら手術が行えるという特徴もあります。
ただし顕微鏡下で脊椎手術を行うには高度な医療技術と先進の医療機器が必要になることから、顕微鏡下手術は一部の医療機関に限られています。
1. 頚椎椎間板ヘルニア
頚椎椎間板ヘルニアとは、首の骨と骨の間にある椎間板が突出して脊髄や神経根を圧迫し、さまざまな症状を出現させる疾患のことをいいます。
一般にヘルニアとは、何かが飛び出すことを意味するとされています。
椎間板は2層構造になっており、中心には水分をたっぷり含んだゼリー状の髄核が、その周辺には、線維が層をなした線維輪があります。
頚椎椎間板ヘルニアはその椎間板が変性(水分がなくなる変化)をおこし、弾力性がなくなるため衝撃によって髄核の一部が線維輪を突き破って飛び出してしまい、脊髄などの神経を圧迫する疾患です。
これにより、以下の症状が出現します。
- 首や肩甲骨、腕の痛み
- 手足がしびれる
- 手足の動きが悪くなる
- 腕や手指から力が抜ける、力が入らない
- 巧遅運動障害が起こり、手先の細かい作業が不自由になる(箸が使えない、字が書けない、ボタンがとめられなくなる、など)
- 歩行障害が起きる
(*3)(*4)
特徴的なのは、症状がある日突然起きるということです。
通常、首や肩甲骨、腕の痛みなどから始まり、症状が進行するとしびれなどの神経症状がみられるようになります。
頚椎椎間板ヘルニアの主な原因は、加齢による椎間板の変性です。
そのほか、日常的に悪い姿勢が習慣化していたり、首に負担のかかるスポーツを継続して行ったりすることでも発症します。(*3)
レントゲンやMRI検査などによって頚椎椎間板ヘルニアと診断された場合には、鎮痛剤や神経ブロックなどを行うほか、頚椎カラーや牽引治療など保存療法が選択されます。
ただしそれでも症状が長引く場合には、手術を行うこともあります。
(*3)公益財団法人 日本整形外科学会 整形外科シリーズ6 頸椎椎間板ヘルニア
(*4)一般社団法人 日本脊髄外科学会
2. 頚椎症性脊髄症
頚椎症とは椎間板が変性して膨隆したり、骨棘(こっきょく、骨が変形して作られる棘のような突起物)ができたりすることにより、首の痛みなどの症状が出現する疾患のことをいいます。(*5)
そのうちのひとつである「頚椎症性脊髄症」とは、頚椎症によって脊柱管のなかにある脊髄が圧迫されるもののことをいいます。
頚椎症性脊髄症を発症すると、主に以下の症状が出現します。
- 手足がしびれる
- 巧遅運動障害が起こり、手先の細かい作業が不自由になる
- 歩行時にバランスが悪くなる、ふらつきが生じる
- 足がもつれる(歩行障害)
(*6)
症状はまず、手足のしびれや感覚異常などが起こります。
やがて病気が進行するにつれて、巧遅運動障害や歩行障害などがみられるようになり、場合によっては膀胱直腸障害が起きることもあります。
頚椎症性脊髄症を招く主な原因は、加齢です。
椎間板は普段の日常生活でも大きな負担がかかっており、加齢に伴う経年劣化でどんどん変性が進んできます。
また老化が進むと体内の水分量が減少していくため、椎間板の髄核もうるおいを失い、乾燥してしまいます。
そのため椎間板が薄くなったり、つぶれやすくなったりして頚椎症性脊髄症などの疾患が起きやすくなるのです。
また、骨棘が形成される原因も加齢にあります。
加齢によって椎間板が変性すると、背骨の安定性が失われてしまいます。
そのため、背骨を安定させるために椎骨は骨のような突起物を作り出してしまい、それが首の神経を刺激し、麻痺や痺れなどの神経症状を引き起こすのです。
民族的に、日本人は欧米人に比べて脊柱管の大きさが平均して2.25mm狭く、そのため頚椎症性脊髄症が発症しやすくなっています。(*7)
レントゲン検査やMRI検査、CT検査などで椎間板の変性や神経への影響について調べたのち、まずは定期的に医師の診察を受けながら牽引治療を行ったり、装具を着用したり、薬物で痛みを緩和したりする保存療法を行います。
実際のところ、頚椎症性脊髄症で治療が必要な人はそれほど多くなく、「加療を要する頚椎症性脊髄症の発生頻度は、人口10万人あたり数人程度」という報告もあります。(*8)
しかし症状が悪化し、日常生活に支障が出る場合には手術を受けることが推奨されます。
(*5)公益財団法人 長寿科学振興財団
(*6)一般社団法人 日本脊髄外科学会
(*7) 千葉医学 87:87 ~ 97,2011 高齢者頸髄症の病態と治療
(*8) 日本内科学会雑誌 110 巻 11 号
3. 頚椎症性神経根症
頚椎症の一種であり、神経根に障害を与えるものを頚椎症性神経根症といいます。
神経根は脊髄から枝分かれしていて、首の神経根は左右にそれぞれ8本ずつあります。
発症の原因は頚椎症性脊髄症と同様であり、加齢変化による頚椎の変化により、神経根が圧迫されることで起こります。(*9)
ただし症状は脊髄症と異なっており、主に以下の内容がみられます。
- 肩から腕にかけて痛みが出る
- 腕や手指にしびれが生じる
- 肩や腕の力が弱くなる、筋力が低下する
- 感覚が鈍くなる
(*9)
一般に、頚椎を後ろへそらせると痛みが強くなるため、上を見たり、うがいをしたりする動作が不自由になります。
頚椎症性脊髄症と異なり、強い痛みが出ることもあるという特徴があるため、頚椎症性神経根症の方が重症と思われがちです。
しかし神経根に比べて脊髄は脳から続いている太い神経であり、修復や再生が難しいため、神経根症に比べて脊髄症の方が、早急に医師を受診することが必要と考えられています。
頚椎症性神経根症の治療法は頚椎症性脊髄症同様、保存療法と手術療法から選択します。
消炎鎮痛剤や筋弛緩剤、神経障害性疼痛治療薬などを用いて痛みをコントロールしたり、装具療法によって頚部の安定性を保持したりしても、症状の軽減が見られない場合には、椎間板の一部を摘出して骨を削り、神経の圧迫を取り除く手術が行われることがあります。
(*9)公益財団法人 日本整形外科学会
4. 腰部脊柱管狭窄症
腰部脊柱管狭窄症とは、腰のあたりの脊柱管が狭くなる疾患のことをいいます。
なぜ脊柱管が狭くなるのかというと、背骨や背骨を支える組織が加齢とともに変性するため。
背骨を支える組織には椎間板や靭帯がありますが、これらは加齢とともに変性し、背骨を支える力が弱くなってしまいます。そのため、安定性を高めるために肥厚し、神経を圧迫してしまうのです。
加齢に伴って椎間板の変性が進む変形性脊椎症に続いて、腰部脊柱管狭窄症が発症することもあります。
代表的な症状には、以下のものがあります。
- 腰が痛い
- 下肢がしびれる、痛む
- 下肢が麻痺する、脱力する
- 足がもつれる
- 間欠性跛行(かんけつはこう)
腰部脊柱管狭窄症の症状には、「立つ」「歩く」といった行動で痛みなどが悪化し、「座る」「前屈みになる」という行動で症状が和らぐという特徴があります。(*11)
間欠性跛行とは、歩き始めると腰や下肢などに痛みが走り、前屈みになると痛みが和らぐが、また歩き始めると痛みが再発する、というように、「歩く」と「休む」を繰り返す状態のことをいいます。
長時間歩き続けることができないため、この状態が継続すると下肢の運動機能どんどん低下し、ロコモティブシンドロームになることがあるとされています。(*11)
さらに症状が進むと、残尿感や便秘などの膀胱直腸障害が起きることもあります。(*10)
腰部脊柱管狭窄症は、近年、高齢化に伴って患者数が増加している疾患のひとつであり、放置すると神経の障害が進んで排尿や排便が困難になったり、足の筋力低下が進んだりして、日常生活に大きな支障が生じます。
そのため、症状に気づいたら早めに診察を受けることが必要です。
MRI検査や脊髄造影検査などにより、腰部脊柱管狭窄症と診断された場合には、薬物療法や運動療法などにより症状の軽減を目指します。
しかし痛みが強く、歩行障害が進行している場合や、排尿排便障害が出現している場合などには、手術により神経の圧迫を解除することもあります。(*11)
(*10)一般社団法人 日本脊髄外科学会
(*11)公益財団法人 日本整形外科学会 整形外科シリーズ8 腰部脊柱管狭窄症
5. 腰椎椎間板ヘルニア
腰椎椎間板ヘルニアとは、腰椎の部分にヘルニアが生じた疾患のことをいいます。
頸椎椎間板ヘルニアと同じく、加齢や悪い姿勢などが原因となって椎間板の内容物である髄核が押し出されて突出し、神経を圧迫することによって、以下の症状が出現します。
- 腰や臀部が痛む
- 下肢にしびれや放散痛が生じる
- 下肢に力が入りにくくなる
- 下肢の筋力が低下する
痛みなどの症状は左右どちらかの足に出現することが多く、また、どの部位の神経が圧迫を受けるかによっても、症状の出現部位が異なります。
一般に、腰椎椎間板ヘルニアが発生するのは第4腰椎と第5腰椎の間にある椎間板と、第5腰椎と仙骨の間にある腰椎とされており、前者の場合にはふくらはぎの外側から足の親指にかけて、また後者の場合には膝の後ろ側から足の裏側にかけて、痛みやしびれが起こるとされています。
また腰椎椎間板ヘルニアの症状は、背中を丸めたり、前屈みになったりすることによって悪化するという特徴があります。
腰椎椎間板ヘルニアの治療は、まず、安静療養、鎮痛薬などの薬物治療、理学療法、注射療法などの保存療法が適応になります。(*12)
ただし自然に治癒するケースも多く、「保存療法を行うことにより、発症して約2週間以内で日常生活の支障が減少する」「MRI画像上で識別される70%のヘルニアは、発症後3~6ヶ月で消失する」という報告もあります。
ただし、すでに運動障害が出ていたり、保存療法でも痛みが継続したり、排尿や排便障害が見られたりする場合にはヘルニアを摘出し、神経の圧迫を解除する手術が選択されます。
(*12)一般社団法人 日本脊髄外科学会
6. 圧迫骨折
圧迫骨折とは文字通り、上下方向からの力が加わることで背骨が潰れたように骨折してしまうことをいいます。
圧迫骨折が起きる原因は多くの場合、骨粗しょう症などにより骨が脆くなっていることが挙げられます。
骨粗しょう症とは骨の量が減ることで骨が弱くなり、骨折しやすくなる病気のことをいいます。
通常、骨は「骨形成(新たに骨が作られること)」と「骨吸収(骨を溶かして壊すこと)」を繰り返し、常に健康な状態を保っています。
しかし女性ホルモンの減少や老化などの影響で、骨形成と骨吸収のバランスが崩れると、骨量が減少し、脆くなってしまいます。この状態を骨粗しょう症といいます。(*13)
骨粗しょう症が発症するだけでは痛みなどの症状はありません。
しかし転んだり、手をついたりといったちょっとしたはずみで骨折をすることが多くなりますし、また、骨が脆くなるために体の重みを支えきれず、ほんのわずかな動作で椎体がつぶれてしまうことがあります。
圧迫骨折が起こりやすいのは、日常的に負荷がかかりやすい胸椎と腰椎の境目(胸腰椎移行部)です。
圧迫骨折が起きると、以下の症状が出現します。
- 体を動かすときに強い腰痛が生じる(体動時腰痛) (*14)
- 姿勢が曲がる
- しびれや麻痺が起きる
- 筋力が低下する
そのほか圧迫骨折が複数の場所で同時に起きると、背中が丸くなり、身長が縮むことがあります。
圧迫骨折で気をつけたいのは、将来寝たきりになるリスクです。
圧迫骨折が起きると体を動かすのが困難になるため、体力が激しく低下し、いずれ寝たきりになってしまうことが多いのです。
「圧迫骨折をした人の10.3%が寝たきりにつながった」という報告もあり、寝たきりになると死亡率が1.8倍高まるという研究結果もあります。
そのため、高齢者の場合は特に注意が必要です。
圧迫骨折の治療は、硬めのコルセットやギプスを使用して安静を保つことが基本になります。
骨折は、3~4週ほどでほとんどが治りますが、安静にしていたことで筋力が衰え、運動機能が低下していることが少なくありません。
そのため、コルセットやギプスをはずしたあとには少しずつ体を慣らし、背筋や腹筋を適度に鍛えて体力の回復に努めることが必要です。(*15)
ただし、圧迫骨折の程度が重症であったり、脊柱管がずれたり、骨片で神経が圧迫を受けたりしている場合には、手術が必要になることもあります。
手術には骨折した部分に骨セメントを注入して安定させたり、神経の圧迫を解除したりする方法があります。
(*13)公益社団法人 日本整形外科学会
(*14)一般社団法人 日本骨折治療学会
(*15)公益社団法人 日本整形外科学会
7. 腰椎すべり症
簡単にいうと、腰椎が前後にずれてしまう疾患のことを腰椎すべり症といいます。
大きく分けて、以下の2種類があります。
- 腰椎変性すべり症
- 腰椎分離すべり症
腰椎変性すべり症とは、主に加齢を原因として腰椎の椎間板や関節、靭帯がゆるむことにより、腰椎が不安定になり、腰の骨がずれてしまった状態とされています。
一方腰椎分離すべり症は、骨が成長する思春期に多く発症する疾患で、中学生ごろにジャンプや腰の回旋を繰り返し行うことで、腰椎の後方部分が疲労骨折を起こして腰椎分離症を発症し、それがさらに進行することで腰椎分離すべり症が引き起こされます。
それぞれ症状は異なり、腰椎変性すべり症の場合には下肢の痛みやしびれ、間欠性跛行や排尿障害などが起こりやすいとされています。(*16)
一方腰椎分離すべり症の場合には腰痛、お尻や太ももの痛み、下肢の痛みやしびれなどが起こります。
診断にはレントゲン検査が重要となり、骨の状態を確認し、腰椎のずれが見られる場合には腰椎すべり症と診断されます。
また、椎間板や神経、靭帯などの変形を確認し、神経の圧迫程度を調べるにはMRI検査が有効です。
治療が必要な場合には保存療法と手術療法から選択します。
一般的にはまず保存療法が優先され、薬物療法、コルセットや腰痛ベルトの着用、神経ブロック注射、運動療法などを行います。
軽度であればこれらで症状の軽減を見込むことができますが、それでも症状が続いたり、足に麻痺が生じたり、排尿や排便障害が見られたりする場合には手術を行います。
手術には神経の圧迫を取り除く「除圧術」と、人工骨などを利用して腰椎の安定性を高める「固定術」があります。
(*16)公益社団法人 日本整形外科学会
8. 変性側弯症
側弯症とは脊柱(背骨)がねじれ、左右に曲がっている状態のことをいいます。
側弯症は思春期の子供に多く見られる疾患ですが、中高年になって急に発症するものもあります。
大人に発症する側弯症には、さまざまな病気に伴って発症する「症候性側弯症」や、生まれつきの「先天性側弯症」などがありますが、その中でも現在、増加しているのが「変性側弯症」です。
これは、骨の組織が変性することによって起きる側弯症で、主に加齢を原因として椎間板が変性し、そこへ「足を組む」「猫背である」などの生活習慣や、肉体労働などの素因が加わって発症するもののことをいいます。
側弯が軽度な場合には症状がほとんどありませんが、進行すると次の症状がみられるようになります。
- 上体のバランスが左右不均等になる
- 体幹のバランスが悪くなる
- 背中や腰、臀部、下肢などに痛みが出現する
- 肺活量の減少など、肺や呼吸器の障害が起きる
- 心臓機能が低下する
また、側弯症によって背骨が歪み、脊柱管が狭くなっている場合には、腰部脊柱管狭窄症の症状がみられることがあります。
レントゲン検査やMRI検査などにより変性側弯症と診断された場合には、まず、薬物療法や装具療法、筋力強化訓練などの保存療法を行います。
それでも効果が得られない場合には神経に対する圧迫を取り除いたり、背骨の安定性を高めたりするために手術を行うこともあります。
運動習慣を身につけ
脊椎疾患の予防を
脊椎にまつわる疾患にはさまざまなものがあります。なかには運動機能を著しく低下させ、寝たきりのリスクを高めるものもあります。脊椎の疾患は高齢者に多く見られるものですが、それ以前から体幹を鍛えるなど、脊椎を安定させる筋肉を強化しておくことは、脊椎疾患の予防にもつながります。「まだ、若いから大丈夫」と油断せず、意識して運動習慣を身につけると良いでしょう。